委員会室の窓、肘をかけて見下ろせば走り抜けていく井桁の模様。
一年は組恒例の放課後補修のようだ。
どうりで・・・・。
今日の委員会日程の打ち合わせに顔を出さない訳だ。
自分用に、そしていずれなくした者様の日程表を新しい半紙に書き写す。
その姿に目ざとく気付いた四郎兵衛。
にじにじと近付き、その手元を覗き込む。
「うわー、綺麗な字。」
「そうか?」
にっこりと笑いながら頷く四郎兵衛に、頬が緩んだ。
「まあ、この平滝夜叉丸にとってこの様な美しい字を書く事など朝飯まえだがな!」
ふふんと鼻を鳴らして胸を張る。
「それ金吾のですか?」
ふふっと笑った後、こちらを伺うように見上げてきた四郎兵衛。
その視線は、何かもの言いたげだ。
「そうだが?それがどうかしたのか?」
「い、いえ!なにも・・・・・何もないのですが・・・・その・・。」
「ん??なんだ?はっきり言え。」
もじもじと手元を弄りながら、口を尖らせた。
「何だこの口は。」
ぶにっとその唇をつまんでやれば、慌ててて手をばたつかせる。
その慌てた姿に、思わず吹き出してしまった。
そして、慌てた四郎兵衛の手から滑り落ちたものにも気付いた。
「これは・・・・、お前の書き写した予定表か。」
「あ!・・・・・あの・・・」
恥ずかしそうに俯くその顔は、真っ赤に熟れている。
もしかしたら、四郎兵衛の言いたい事は・・・。
「四郎兵衛、お前は私が書いた日程表が欲しいのか?」
うっと言葉を詰まらせた四郎兵衛、どうやら図星を突いたらしい。
「だって・・・・・僕字が下手だし・・・金吾だけ先輩の綺麗な日程表なのが羨ましくて・・。」
袖を握り締めながらいじけた声音で呟く四郎兵衛に、いかんと思いつつも頬が緩んでしまって・・・。
なんて可愛い後輩か。
「四郎兵衛!」
「は、はひっ!」
びくっと跳ね上がった四郎兵衛をぎゅっと抱きしめ、その頭を想いっきりなでてやる。
「お前は可愛いな!そんなに私が好きか!そうか!そうか!」
「せ、せんぱ・・ぃぐるじ」
「おお、すまんすまん。じゃあ、詫びにこれをやろう。」
金吾に書き写した紙を懐にしまい、元々私が書き写したものを差し出す。
「・・・え?い、いいんですか?」
きょとんと、呆けた四郎兵衛にニッと笑う。
「ああ、構わない。その代わり、お前の日程表を私にくれ。」
「うぇえええ?」
ぎゅっと日程表を握り締める四郎兵衛、おいおいそれじゃあグチャグチャになってしまうじゃないか!
「こらこら四郎兵衛。」
「だ、だって汚いです!先輩の字とは全然ちがうから!」
「・・・・当たり前じゃないか。お前の字なんだから。」
「で、ですから」
「四郎兵衛の字は、温かくていい字だぞ?私は四郎兵衛の字が好きだからな、取替えよう。」
「・・・・・・・・滝夜叉丸先輩。」
少し嬉しそうに笑う四郎兵衛。
おずおずと日程表を差し出してきた。
少しくしゃっとつぶれたそれを受け取り、私が書き写したものを差し出す。
「先輩・・・ありがとうございます!」
「どういたしまして。」
にっこりと笑い、一礼して駆け出していく後姿を見送った。
ぴらりと開いてもう一度見れば、お世辞にも綺麗とは言えない不ぞろいな文字達。
しかし、その一字一字が、四郎兵衛を表しているようで。
何だか可愛かった。
「さ、金吾に届けに行ってやるかな。」
硬くなった身体を、背伸びして解せば鐘が一つ鳴る。
「補修も終わっただろうな。」
西日が眩しい校庭に向かい、委員会室を後にした。
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