切られた腹が痛い、殴られた全身が悲鳴を上げる。
上手く下級生を逃がしたのは滝夜叉丸。
何も言わずとも、敵を引き付けている間に三人を引き連れて走っていった。
あうんの呼吸だな。
ひっそりとほくそ笑み、痛む腕で苦無を構えた。
敵は二人。
三人は倒した、だがこちらも傷を負ってしまったのだから、あまりいい戦況とは言えない。
だが、まだまだここを通す訳にはいかないのだ。
あの後輩達が無事逃げ延びるまでは、一歩たりとも引くことは出来ない!
忍び刀を振り上げ、駆け出した二人。
疲労と傷の痛みで目が霞む。
「おおぉぉぉぉぉ!」
腹から声をあげ、己を奮い立たせる。
森に響いた咆哮。
その時。
美しい放物線を描いた光が、襲い掛かる忍者の首を裂いた。
噴出した血飛沫に、その狙いが的確であった事を物語る。
息絶えて転がる肢体を避け、地を蹴り一旦間合いを取るもう一人の忍び。
背に感じる、胸を焦がす気配。
「何故逃げなかった?滝夜叉丸」
「三之助が迷ってしまう事まで計算に入れたら、先輩だけでは時間稼ぎが大変だと思いまして。」
まだ少し荒い息を整えながら、微笑む。
泥と小さな傷が走っているが、その笑みは美しかった。
「素直に心配だったと言えんのか?」
そう言ってもらえた方が燃えるんだけどな。
だが滝夜叉丸は甘くは無い。
少し頬を染めはしたものの、目で叱るように睨まれた。
「まあいい、お前がいれば守りたいから死ねない。それに、カッコいい所を見せたいから頑張れるしな!」
本当に不思議だが、滝夜叉丸の姿を見た途端痛みを感じなくなったのだ。
戻ってきてくれた滝夜叉丸を、今すぐぎゅっと力いっぱい抱きしめたい。
だから早くこいつを倒してしまいたい。
闘志も燃え始めた。
戦輪を構えた滝夜叉丸に背を預け、かっと目を見開く。
ぼやけていた視界は、自分でも信じられないほどスッキリと晴れていた。
「滝夜叉丸、お前なら安心して背中を任せられるよ。」
それが今の本心。
四年生にしてあの実力、自惚れだと人は言うがそれは違う。
努力の上に成り立つ自信なんだ。
だからこそ、信じられる。
「嬉しいです・・・・好きだと言われるよりもグッと来ますね。」
笑みを含んだその声に、こっちがグッと来る。
さあ、とっとと片付けよう。
泣きながら待っているであろうあの三人に、二人笑顔で『ただいま』と言わなければならないから。
「行くぞ!」
「はい!」
体育委員会で鍛えた私達の実力、とくとご覧にいれようか!
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