朝起きた。
右に滝が寝てる。
それは昨日の夜最後に見た情景と何ら変わりは無い。
だが。
「じゃあこの左腕を枕に寝てる滝はだれ?」
小平太はまだ覚醒しきっていない頭で必死に考える。
しかし、暑いなぁ。
などと思って布団を蹴り飛ばすと、今度は小平太の腰辺りに身を縮めて眠る滝夜叉丸。
ぎょっとしてその姿を伺えば、確かに滝夜叉丸だが幾分幼いようだ。
丸みのある頬をゆるめ、無防備に眠る姿は酷くかわいい。
「た、滝夜叉丸?」
やや大きめの声で名を呼べば、身じろぎする3人の滝夜叉丸。
一番初めに起きたのは、右に寝ていた滝夜叉丸だ。
「ん・・・・おはようございます。」
眠そうに目をこすりながら顔を上げる。
見慣れた滝夜叉丸のあどけない笑顔。
異様な情況に陥っているのだろうが、小平太はその笑顔が可愛くてつい、にへらっと笑った。
「滝、朝から可愛い。」
「な!何を仰っているんですか!朝から!」
真っ赤になって目を逸らした滝夜叉丸の視界に、左側で寝ていた滝夜叉丸が映る。
「んー・・・もう朝?」
「なっな!何ですかこれ!?」
「いや、私がそれを聞きたくてな。」
困ったように笑う小平太越し、自分と全く同じ容姿の滝夜叉丸を見つめる。
「あ、おはようございます。」
ニッと笑い、小平太の背に抱きつく。
「うお!?」
「お、お前!」
慌てる滝夜叉丸には目もくれず、呆気にとられた小平太を見上げる。
「先輩・・口付けが欲しい。」
艶っぽく強請る滝夜叉丸と、そんな姿に顔を赤らめて慌てふためく滝夜叉丸。
ごくりと鳴った小平太の喉。
「ちょっと先輩!何鼻の下伸ばしてるんですか!」
ぐいっと小平太の胸倉を掴み、引き離しに掛る。
しかし、それを拒むように引っ張り返す。
「先輩、早く。」
甘えた声で囁き、回した腕を寝間着の合わせに差し込む。
小平太の素肌に触れた滝夜叉丸の手は、その感触を楽しむように踊る。
「た、滝・・・。」
フラフラと誘いに乗ってしまいそうな小平太。
引き離しに掛る滝夜叉丸は、今にも泣き出しそうだ。
「だめ!駄目です!先輩のバカ!」
そう叫ぶと、とうとう涙が溢れた。
その姿に今度は小平太が慌てる。
「いや、違うって滝。これはだって、あれ?何これ?浮気になるのか?」
「ばかぁー!!!!!」
ボロボロ泣きじゃくる滝を抱きしめ、ごめんねと頭を撫でてあやす。
「ずるい、私の方が先輩の事すきだと言うのに!」
今度は口付けをねだっていた滝夜叉丸がぐずる。
「先輩のバカ・・・・もう嫌いなんだ・・・・私の事なんて。」
ウルウルと涙を溜めた目が、上目遣いで小平太を見つめる。
「そんなわけ無いだろう!?ちょっと待って、どっちも滝夜叉丸なのか?何でこうなったんだ?」
混乱する小平太にまた難題が降りかかる。
「ん~~~~~~!」
とうとう最後の一人、ちび滝夜叉丸が目を覚ましたのだ。
「おいおい、どうなるんだよー。」
焦る小平太。
「先輩、浮気は駄目です!」
「しないしない!」
「酷い先輩、もう嫌いなの?」
「とんでもなく大好きだよ!」
「おしっこー」
「うん、そうそう!おしっこ・・おし・・・」
「漏れる~~~~っ」
ちび滝夜叉丸の真っ赤になった顔と、涙いっぱいの大きな目。
両手を必死に小平太に突き出して縋る姿に、小平太は慌てて抱き上げた。
「厠ー!!!!」
そう言った瞬間、世界が開けた。
「あ・・・・れ?」
そこは見慣れた部屋。
右となりには、冷めた目で見下ろしてくる滝夜叉丸の姿。
小平太は慌てて左を確かめ、布団の中を確認した。
一連の動作を訝しげに見つめていた滝夜叉丸を見つめ、小平太は悟る。
「ゆ、夢オチ・・・・・・?」
「行き成り厠ー!と叫んで起きられたので驚きましたよ。」
「滝、冷たい・・・。」
あんなに翻弄したくせに。
何だかぐったり疲れてしまった小平太は、まだご機嫌斜めの滝夜叉丸を抱き寄せる。
「ごめんって。」
下ろされた髪を梳き、そっと口付けると艶やかな感触。
本当に綺麗な髪だと微笑み、少し赤くなった顔を覗き見る。
「先輩・・・夢の中誰かと一緒でした?」
不安そうに問いかける滝夜叉丸に、お前がいっぱい出てきて右往左往させられたと言いたかった。
「何でだ?」
「大好きだ!って言ってたから・・・・その」
小平太の視線に耐え切れず、その胸に顔を埋めてしまった滝夜叉丸。
夢の中の相手にまでヤキモチを焼いてくれた事が、無性に嬉しい。
「可愛いなー滝夜叉丸は!」
ぎゅむっと抱きしめると、むっと口を尖らせて次の言葉を紡ごうとするその前に。
「ん!」
塞いでしまえ!
夢の中で口付けをねだったのは、お前だ。
自分勝手な理由だが、朝から翻弄されたのだ少しぐらい良い目を見てもいいだろう。
ムクれた唇を何度も啄ばみ、満面の笑みを浮かべる。
「お前が大好きだ!って言ったんだよ。夢の中でもな。」
優しい眼差しが、滝夜叉丸の頬を更に染めた。
もじもじと躊躇いながら、滝夜叉丸は小平太の頬にそっと口付ける。
そして、その耳朶に可愛らしい嫉妬を滲ませた。
「夢の中でも浮気しちゃ駄目です。」
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