子供の相手は大変だ、何て私の歳で言ってもいいのだろうか?
朝に比べて明らかにボロボロの滝夜叉丸。
しかもその着物は何故か女物に変わっている。
「ただいまー!滝~?」
元気な声が土間に響く。
どうやら小平太と孝廉が家に戻ったようだ。
ハッとして慌てるも時既に遅し。
少し泥で汚れた小平太がひょっこり顔を出した。
「あれ?滝なんか可愛いね。」
にっと笑う小平太に、力なく微笑む滝夜叉丸。
「実は・・・。」
小平太が三之助を集合場所まで送っていった後、流しを片付け終えた滝夜叉丸は支度に取り掛かった。
今日は茶道の作法を教えて欲しいと言われたため、道具をそろえていく。
てきぱきと動き回る滝夜叉丸を見つめる小平太の母幸乃は、何かを思いついたようにぽんと手を打つ。
「滝夜叉丸ちゃん。」
「は、はい?」
ちゃん付けで呼ばれるのは初めてだ。
ビックリした顔で振り返る滝夜叉丸に幸乃は楽しそうに微笑む。
「うふふ、田舎の女の子は純情なのよ。だからね・・・・」
「??」
「滝夜叉丸ちゃんみたいに綺麗な顔の男の子見たこと無いと思うの~。だからね、勉強に身が入らなくならないように、先生する間はお滝ちゃんでお願いできるかしら?」
微笑を浮かべる幸乃は親当の母とは思えぬほど若々しい。
だがその口から出た言葉は、意外すぎて簡単に滝夜叉丸を固まらせた。
いそいそと、だが心底楽しそうに箪笥を探る幸乃。
「私が少女時代着てたものがここにね~」
「え?ちょ、ちょっと待ってください!」
「遠慮しないで~。」
遠慮じゃないよ!
何でこんな所に来てまで女装?これは呪いか?
そして何故七松家の人間はこんなにも人の話を聞かないんだ!?
「お、お母様?」
「あら。幸乃さん、もしくは幸ちゃんでいいわよ?」
うふふふふふーと笑う幸乃。
ああ、この笑顔孝廉に似てる、と力ないため息を漏らす。
「じゃーん、どっちがいい?」
幸乃が手にしていたのは、薄桃色の生地に羽ばたく蝶の柄。
もう一着は天色の地に朝顔。
「いや・・・あの幸乃さん。私は女装などは・・」
「どっちがいい?」
「・・・・・・・・・・・。」
ニコニコと楽しそうに問いかける幸乃の言葉には、拒否却下の重圧。
うっと詰まる滝夜叉丸にもう一度着物が差し出された。
「さあ!どっち!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・こ、こちらで。」
滝夜叉丸は夏らしい天色の着物を指差した。
もうやけだ。
「ああん!私もそっちが似合うと思っていたのよ!さ、すぐに着替えてきてvv」
そんなに元気なら作法ぐらい教えられそうだと内心思ったが、孝廉と同じ笑顔だと気付き逆らう事は諦めたのだった。
「そ、そうか・・・・母上が。」
ぽりぽりと頬をかいた小平太。
目の前にはまるで本物の女子のような滝夜叉丸。
「そんな無防備な姿、晒していいのか?」
誘うようにささやけば、真っ赤になって慌てる。
その初々しい反応に笑いながら、小平太は滝夜叉丸の頭を撫でてやる。
「お疲れ様。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、お疲れさまです。」
恥ずかしそうに微笑んだ滝の夜叉丸の額に、おおきな音をたてて口付けた。
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