ちょっと、ねちねちキス表現あります。
気をつけてください。(^^;)
あれ?まだみんな来てないなぁ?
集合場所間違ってんじゃないのか?
大丈夫かな?
みんなすぐ迷うからな。
ま、とりあえずもう少し待ってみるか!
三之助が無自覚に迷子になっていたその頃。
神崎左門を除く3年生全員は、向かいの山の頂上に集合していた。
そして七松家では。
長男親当が仕事に出かけていた。
「それじゃあ、行ってきます。」
「「「いってらっしゃい。」」」
弟プラス滝夜叉丸の見送りに満面の笑みで答え、親当は大きく手を振りながら家を後にした。
「あー、あんなに上っついてたら上官にいじられるぞ、兄上・・・。」
困ったように笑い、孝廉は鍬を肩に担ぎ畑へと出発する。
「じゃ、いってくる。」
「いってらしゃい!」
「後で手伝いに行くから。」
「ああ、頼むよ。」
七松家の台所事情により、自家栽培できるものは何でも孝廉が作っているらしい。
それに加えて、ほんの少し忍者としての仕事もこなしていると言う。
滝夜叉丸には孝廉と戦場のイメージがどうにも結びつかない。
ただ実力者である事は分かった。
青々と沢山の酒類の葉が茂る畑へ向かう孝廉の背中がだんだん小さくなっていく。
「それじゃ滝、悪いけどよろしく頼むな。」
「はい、お任せ下さい。」
にっこりと微笑んで小平太に答える滝夜叉丸。
実は小平太の家に招かれたのは、単に家に帰りたがらない滝夜叉丸を心配してだけの事ではない。
小平太の家の敷地には小さな寺子屋がある。
小平太の父と母が、村の子供達に勉強や礼儀作法を教えているのだ。
教養があれば、例え身分が低くともある程度安定した収入を得る仕事に就ける。
貧乏と言えども、武家は武家。
その辺はしっかりと教育を受けている。
助け合い暮らしている集落の中で、小平太の両親は教育を提供しているのだ。
村の殆どの者から『先生』と慕われている小平太の両親。
だが葉菜代を出産して以来、少々体調を崩した小平太の母。
礼儀作法や花嫁修業として行っていたお花やお茶を教える事が出来なくなっていた。
その事を孝廉の手紙で知った小平太は、渡に船と滝夜叉丸に話を持ちかけたのだ。
ただ家に遊びに来いでは、滝夜叉丸の事きっと遠慮する。
だがそこに『お願い』が入ると、滝夜叉丸の元来の世話焼き&頼られると嬉しい気質が疼く。
案の定、仕方ないですねと笑いながらも嬉しそうに快諾してくれた。
「さ、私も巻拾いに行くかな!畑も行かないとならんしな!」
「じゃあ私は食器を洗っておきます。」
「ん、それじゃ滝。」
「はい?」
んー、と唇を突き出す小平太。
ドキリと頬を赤らめながらも、微妙に引いてしまう滝夜叉丸。
「行ってらっしゃいの口付けを・・・」
「しませんよ。」
嫌そうに顔を顰めて見せても、心底嫌がっていない事などすぐにわかる。
「えー、私が頑張れるか頑張れないかはこれで決まるんだぞ?」
うるっと捨てられた子犬のように拗ねた顔で強請るのはずるい。
への字に口を閉じた滝夜叉丸は、真っ赤な顔でため息をついた。
そして、ちゅっと可愛らしい口付けを一回。
「へへへー」
にへらぁと笑う小平太は、指を一本立てる。
明らかに、もう一回の意味だ。
「ちゃ、ちゃんとしたじゃないですか!」
むっと眉を吊り上げた滝夜叉丸をふわりと抱きしめ、小平太は木陰に連れ込む。
「だって、今日はいっぱい働かないといけないんだぞ?一度だけでは足りないさ!」
「どんな理屈ですか!って、先輩ちょっ・・・んっ!」
強引に口付けた小平太を睨むも、目の前には閉じた瞼。
思いのほか長い睫毛。
きりっと凛々しい眉。
その眉に掛る褐返色の髪は、粗く堅い。
そよぐ風に揺れる髪からは、小平太の匂い。
滝夜叉丸が一番落ち着く、大好きな小平太の太陽のような匂い。
「んっ・・・・はぁ・・・あ・・・」
やっと離れた小平太の口元には、どちらの物ともつかない透明な糸。
それは滝夜叉丸の唇にも。
恥ずかしそうに指で拭えば、小平太が笑う気配。
「そんなに可愛いと、朝からでも攫ってしまいそうだ。」
「たちの悪い人攫いですね。」
優しく睨む先、小平太は意外そうに眉を上げた。
「だって性質が悪いではないですか。攫われたいと思わせる”人攫い”なんて。」
ふわりと微笑んだ滝夜叉丸から漏れた予想外の殺し文句に、上手を取っていたはずの小平太は目を丸める。
それは、非常に・・・・嬉しい事を言われたようだ。
少し頬を赤らめ、恥ずかしそうに笑う小平太の首に手を回し滝夜叉丸は少し背伸び。
小平太の所為で赤く熟れてしまった唇が、遠慮がちに吸い付いてくる。
柔らかな唇、震える瞼。
長い睫毛と、綺麗な髪。
漏れる吐息は、小平太を嫌と言うほど煽ってくれる。
これ以上はまずい、流石に分かっている。
だが止まらない。
何故こんなに甘いのか?
一度味わえば、また欲しくて啄ばむ。
離れられない、麻薬のよう。
「せ・・・んぅ・・・もぅ・・・・だめ・・・・」
「ん・・・・でもさ・・・・・とまんなぃ・・」
もう蕩けてしまいそうな滝夜叉丸は、必死に小平太にしがみつく。
そうでもしないと、膝が笑い立っていられないのだ。
思考が追いつかなくなってくる。
ジュッチュプ・・・チュッ・・・・
恥ずかしい水音が、蝉の声よりも耳に響く。
もう本当に、これ以上は無理!
滝夜叉丸は泣き出す寸前の状態で、必死に小平太の胸を叩いた。
ハッとした小平太が慌てて離れた時、遠くから響く慌てた声。
それは先ほど家を出たはずの親当の声で。
ん?と、ぱちくりと瞬きをする小平太。
息を整えながら必死に冷静を取り繕う滝夜叉丸。
潤みきった目が睨みつけてきたが、小平太はあえて気付かぬフリで首をかしげた。
「あれ?兄上の声だ?」
「わざとらしいですよ!」
しかし親当が小平太と滝夜叉丸を呼ぶ声は確か。
二人は慌てて駆け出す。
「兄上!どうしたんですか?」
「先輩!一体何・・・・って・・。」
駆けつけた二人が目にしたもの。
それは、見慣れたあの・・・・あの・・。
「あれ?先輩方。おはようございます。」
親当が必死に手を引いてきたのは、名物迷子の次屋三之助だった。
「いやー山道の中行き成り現れてね、猪?って思ったらこの子でね。聞けば忍術学園の生徒さんって言うからお兄ちゃんビックリだよー。」
額に大粒の汗を光らせた親当、どうやら三之助の手を引いてここまで連れて来た様だ。
きっと行き成り迷い癖を発揮して、あちらこちらに引き摺られそうになったのだろう。
すみません、本当にすみません。
滝夜叉丸は心の中で謝った。
「三之助、なんでこんな所に居たんだ?」
小平太が笑いながら三之助を受け取ると、親当はホッとして額の汗を拭う。
「私も理由を聞いたらね、何でも自主練習とかで山に入ったらしいんだけど。この子が言ってる山って真向かいの山なんだよね。案内する時間ないからさ、お前に頼もうと思って。」
「そっか、あいかわらずだな、三之助。」
「ん?何の事ですか?」
きょとんと首をかしげた三之助に爆笑し、小平太は親当に礼を言ってもう一度送り出した。
「三之助、 ここは私の実家だ。今のは私の兄。」
「へーここが先輩の家ですかー。」
「おう!自主練終わったら遊びに来い!さて、お前を先に送っていくかな!」
立ち上がった小平太に縄を手渡す滝夜叉丸。
わっかになった縄に二人で入る。
「またこれですか?先輩達好きですねー。」
「お前のためだろうが!!!」
声を荒げた滝夜叉丸に苦笑し、小平太は三之助ににっと白い歯を見せる。
「三之助ぇー、体なまって無いだろうな!」
「・・・・・・お手柔らかにお願いします。」
夏休みに入りまだ10日ほどだが、委員会から離れただけでも運動量はグンと減る。
冷や汗を流した三之助、笑う小平太。
三之助は思った。
藤内、作兵衛、左門、孫兵・・・・・・・・・・あ、数馬、俺無事にたどり着けないかも。
あらぬ方向を見てうすら笑う三之助を引っ張り、久しぶりの掛け声が朝の空に響く。
「いけいけどんどーん!!!!!」
PR