言い出せない想いは、いずれ消えていってくれるだろうか?
この胸の痛みも、意味もなく流れる涙も。
いつか、無くなってくれるのか。
そうでなくては、困ってしまう。
こんな苦しみ、ずっと抱えてなどいられない。
「・・・っ。」
堪えた嗚咽、震える肩。
力なく項垂れた頭。
見慣れぬその姿に、滝夜叉丸はどう声をかけて良いのか分からずに立ち尽くす。
「どうしたの、滝夜叉丸。」
「喜八郎・・・三木ヱ門が・・。」
「三木ヱ門?」
滝夜叉丸の指差す先に目を向けた喜八郎は、三木ヱ門の姿に柳眉を上げた。
「おやまあ。珍しい光景だこと。」
「喜八郎!茶化すな!」
そんな滝夜叉丸の制止を無視して、喜八郎はすたすたと三木ヱ門の元へ向かう。
「三木ヱ門、どうした?」
そっけない喜八郎の呼びかけに、三木ヱ門はビクリと肩を震わせる。
「なに泣いてんの?」
「煩いっ・・・・」
「喜八郎!」
泣き顔を見られまいとごしごし袖で顔を拭う三木ヱ門。
デリカシーのない喜八郎の行動に、滝夜叉丸も眉を顰めた。
「おや、何がいけないんだ?友達が泣いてるんだよ?気を回して何もしないのが優しさ?」
「時と場合によるだろう!」
「そんな事言ってたら、三木ヱ門はずっと何もいわないよ?そんな子でしょ?」
的をt射た喜八郎の意見に、思わず滝夜叉丸も言葉に詰まる。
「三木ヱ門、私たちはそんなに頼りないかい?お前が愚痴をこぼせないほど、信用ならない?」
「そ!そんな事っ!」
「じゃ、おいで。」
そう言うと、喜八郎は両腕を広げた。
「は?」
「え?」
「ほら。」
ぽかんとした二人とは裏腹に、喜八郎はにいぃっと笑っていた。
「落ち込んだ時は、ぎゅっとして暖かさ分けてあげるよ。ほら!」
「わ!わえあっ!」
慌てふためく三木ヱ門に構わず、喜八郎はぎゅっと三木ヱ門を抱きしめる。
三木ヱ門の肩ごし、喜八郎から目配せ。
その意を理解した滝夜叉丸は、苦笑を漏らして頷く。
「ほら!ぎゅー!」
「お、お前まで!ちょ・・!二人とも!」
「「ぎゅー!!!!」」
「わかったー!もう良いからー!勘弁してくれぇぇ!!!!」
真っ赤になった三木ヱ門を開放し、喜八郎と滝夜叉丸は根掘り葉掘り落ち込んでいた理由を聞き出したのだった。
「で、結局・・・・。」
「潮江先輩との・・・・。」
「些細な事でのくだらない痴話げんかだと言うオチねぇ・・・」
「く、くだらなく何かないだろ!」
「くだらないな、女の好みを聞いたぐらいで・・。」
「そうだよ、何だかんだ言ったってさ~、潮江先輩が『好きだ』って言ってんのは三木ヱ門だけじゃないか。」
「そりゃ、そうだけどさ・・・。」
「赤くなった・・・。」
「ノロケだね・・。」
帰ろう帰ろうと、二人はそそくさと立ち去る。
一人取り残された三木ヱ門は、慌てて追いかけた。
「ま、待てって!別に、惚気てなんかないからな!」
ぎゃーぎゃーと喚きながら長屋に戻ってきた3人を、ノンビリした声でタカ丸が出迎えたのだった。
PR