数日後、金吾からせっつかれて仕方なく滝夜叉丸に事情を話す。
「先輩のこと、色々言ってたんでツイ我慢できなくて殴りました。」
「・・・・・・私の所為か。」
「違うでしょう、俺が勝手に腹立てて喧嘩したんすから。そうやってすぐ自分の所為にしたがるから言いたくなかったんですよ。」
小さく嘆息して肩をすくめた三之助は、体育委員会で鍛えられ5年に上がる頃にはあっさりと滝夜叉丸の背を抜き去った。
上背も腕力も今では三之助の方が上だ。
この体格から殴られた同級生に同情する。
「なんて言われたんだ?自惚れ屋の委員長の下じゃ大変だろう?とかか?」
前に一度四郎兵衛が落ち込んだ原因はそれだったが。
滝夜叉丸の言葉に、次屋はきょとんとした顔で頬をかく。
「んな事で腹立てませんよ。散々からかわれましたから。」
「・・・・・そうか。」
「また。」
俯いた滝夜叉丸に歩み寄り、その顎に人差し指を当て上向かせる。
「三之助?」
訝しげに首をかしげる滝夜叉丸に、三之助は表情を変えぬまま呟く。
「やっぱり可愛いなぁ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
ぺし。
三之助の手を払った滝夜叉丸は、頭を抱える。
分からん。
相変わらずこいつは分からん。
苦悩する滝夜叉丸に、間延びした声が掛けられた。
「男でもいいから抱いてみたい。」
衝撃的な一言に、音がしそうな勢いで三之助の顔を見上げる。
「そう言ったんですよ、あいつら。女みたいな顔だし、華奢で手折りたくなるって。」
「な!」
あまりの衝撃に、滝夜叉丸は声が出ない。
自分がそんな対象として話題にされていたとは、思いもしなかったのだから。
二の句が告げないでいる滝夜叉丸腕を、三之助は思いっきり掴んだ。
「こうやって、捕まえられて逃げられるんですか?もし相手が数人で囲んできたら?」
「なっ、そんなことは・・!」
「ないって言い切れます?先輩は無防備すぎるんですよ。湯上りのあんな姿でフラフラするなんて、変な考え持ってる奴らに襲ってくれって言ってるようなもんですよ。」
むっと顔を顰める滝夜叉丸を見下ろし、三之助は一瞬その表情を崩した。
「あの人があんたに色気なんか付けるから、変な輩が湧いて来るんだ。」
三之助の言わんとする事を察し、滝夜叉丸はギッとその目を睨んだ。
ぐっと肘を突き出し、三之助の腕の間接を捻る。
痛みで怯んだ隙に自由な腕を使い、絆創膏の張られた頬を思いっきり殴った。
「っう!」
土煙を上げて倒れ込む三之助を見下ろし、滝夜叉丸は唇を噛み締めた。
「お前にとやかく言われる筋合いはない!」
心底悔しそうに叫び、滝夜叉丸はその場から駆け出す。
小さくなっていく足音に、気付かぬうちに舌打ち。
痛む頬を押さえ、どうにか起き上がった三之助は柵に寄りかかり空を見上げた。
「あんな泣きそうな顔で強がられたってなぁ・・・・、くそ。」
鉄の味が口内を蹂躙する。
「また数馬に怒られるじゃねぇか。」
日々変化し続ける自分達とは違い、あの日から何も変わらない空を見上げ、三之助は追いかけても追いつけない広い背中を憎んだ。
なが!
何だか思いのほか長くなってしまいました。
すみません、ただの妄想です。(^^;)
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