「三木ヱ門」
「はい、帳簿は全てそろえてます。」
「そうか、では」
「安藤先生にもお伝えしました。」
「すまんな。」
「いえ、構いませんよ。これくらい。」
にっこりと嬉しそうに微笑む。
その笑顔を見つめ、文次郎は満足そうに頷いた。
「何だか長年連れ添った夫婦のようじゃないか?」
興味なさそうに呟いた仙蔵の言葉に、伊作は苦笑を漏らす。
「そうだね。とにかく三木ヱ門は文次郎の事よく分かってるよね。」
「ああ、まるで阿吽の呼吸だ。『おい』って言ったら、『ハイあなた。』ってお茶が出てきそうだ。」
その一言で、伊作は声を上げて笑う。
「あははは!その光景が目に浮かぶよ!」
思った以上に伊作から笑いを取れたことに、仙蔵は満足げに微笑む。
「だってそうだろう?文次郎の言いたい事全部先回りしてさ。」
「ん、そうだね!あの二人ずっと会計で一緒だよね。もう4年も。」
「なかなかに珍しいよな。」
ぼんやりと縁側で雑談していた二人の側、片づけを終えた文次郎が歩み寄る。
「こんな所で何油売っているんだ?」
10キロそろばんを抱えた文次郎を見上げ、二人は今しがたの会話を思い出す。
そして。
「ぷっ!」
「おい伊作、目の前で笑うのはいくら文次郎相手でも失礼だぞー?例え文次郎が相手でもな!」
「お前達、けんかでも売ってるのか!」
苛立ちを見せた文次郎を座らせ、長次の土産の団子を差し出した。
「まあまあ。団子でも食って気を落ち着かせろ。」
にっと笑う仙蔵の勧めを断れず、文次郎は三食団子を忌々しげに頬ばる。
「ごめん、文次郎。今仙蔵とね、文次郎と三木ヱ門ってまるで熟年夫婦みたいだねって話してたんだ。」
「そうだ!お前と三木ヱ門は言葉を交わさずとも、阿吽の呼吸で察している。それが凄いと話していたんだ。」
二人の言葉に、文次郎はしばし考え込む・
「やはり、間違ってなかったのか・・・。」
ポツリと漏れた文次郎の言葉。
意味が分からない伊作と仙蔵。
文次郎はにやりと笑う。
「三木ヱ門が1年生の時から刷り込んでいたのさ。あいつ自身にも気付かれないようにな。俺の呼吸を!」
「「は!!??」」
その言葉の意味をきちんと把握できない二人は上ずった声で驚く。
文次郎はにたぁりとわらう。
「幼いころから目を付けて、自分好みに育て上げる!これぞ男のロマン!紫の上プロジェクト!!ギンギーン!!」
うはははっは!っと、得意げに踏ん反り返る文次郎。
そんな同級生の気持ち悪い姿に、二人はドン引き。
「「うわぁ、最低。」」
季節違いの寒風が吹きぬけた。
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