夏休み明け、すぐに涼しくなった日の事。
夕暮れにひぐらしが鳴くも、肌冷えさえする今日はどこか季節違いのような気がする。
決してひぐらしが間違っているわけでは無いのに。
どこかぼんやりと夕焼けを見つめる仙蔵の頭を、長次の無骨な手が撫でる。
さらりと手触りのいい髪を2・3度撫でてやると、切れ長の美しい目が細められた。
その嬉しそうな様は、花が開くようだ。
「退屈か?」
「全くもって全然!退屈なんか感じやしないさ。」
微笑を浮かべた仙蔵の手が、長次の手を捕まえる。
「ただ、出来る事なら・・・」
じっと上目遣いで長次の表情を探りながら、捕まえた手に口付けた。
「ちょっとは構って欲しいかな?」
積み上げられた本にも嫉妬してしまう。
仙蔵の悪戯な眼差しは、照れ隠しであると知っている。
甘えたがりの癖に、意外と我侭を言わない仙蔵。
本の整理に精を出す長次にも、いくら待たされたとしても文句を言わないのだ。
「すまん、もうすぐ終わる。」
「ふふ、いいさ。気にして無いよ、私はお前と一緒ならそれだけで幸せだから。」
そっと仙蔵の手を解き、その頬にそえる。
滑らかな肌を撫でると、うっとりと目を閉じる仙蔵。
長い睫毛が震え、微笑む。
「そんな顔をされてはたまらない。」
ポツリと呟き、長次は笑みを称えた唇を塞いだ。
「長次、大好き!」
にっと笑う仙蔵は、いつもの大人びた顔を捨て歳相応の笑顔。
「もう少し、かかる。」
「今のでもう少し待てるさ。」
ニコニコとご機嫌の仙蔵は、頬杖をついて鼻歌を歌い始めた。
仙蔵にしか分からない程度に苦笑した長次の口元を見つめ、そっと自分の唇に指を伸ばす。
(終わったら、もうちょっと深いのくれるよな?)
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