「私の頑張れる理由は、私よりももっと頑張っている方がいらっしゃるからです。」
誰と話しているのかは知らないが、凛と通った声は紛れも無く三木ヱ門のものだ。
どう言った経緯でそんな話題になったのかは知らないが、自信に溢れたその言葉が胸に響いた。
何の迷いも無い、まっすぐな気持ちが篭った言葉だからだろう。
まだ少し甲高い声は、酷く耳障りがよい。
「そうかー、三木ヱ門には目標とする人がいるんだね?」
少し間延びした声に、三木ヱ門の話し相手がタカ丸だと知る。
暢気な口調のわりには、実践に強いイメージ。
辻刈り等していたぐらいだ、経験が無くともそれなりに才能があったという事なのかもしれない。
「違いますよタカ丸さん、目標の人ではないんです。尊敬・・・・ともちょっと違うかな?」
己の心情を探るような言い回しで濁した三木ヱ門、その意図は何か。
「んー?どっちなの??」
歳よりも子供っぽいタカ丸の笑い声。
三木ヱ門の唸り声と重なる。
「ん~~~~~~~、何て言ったらいいのか?」
「じゃあさ、その人の事をどう思ってるか教えてよ。」
考えあぐねる三木ヱ門に、タカ丸からの救い舟が出された。
「そうですね、あの人と一緒にいると・・・隣に並べるようになりたい!って思います。優しいけれど甘くない、厳しい人だから。」
「ふーん、三木ヱ門はその人に認められたいの?」
「・・・そう、なのかもしれないですね。でも、隣に居てもいいって資格が欲しいのかもしれません。誰からも、あの人の隣にはお前が居てもいい資格があるって・・。」
「三木ヱ門、自分に自信が無いの?」
少し不安な声音になったタカ丸。
その心情は、不本意ながら自分の心中と一致していた。
あの三木ヱ門がこんなにも誰かの隣に居る事を望み、それを許されたいと願っている。
一番に浮かんだのは、敬愛してやまない憧れの狙撃手だろう。
だが、尊敬とは違うと言ったあの言葉はどうなる?
一体誰のことを言っているのか。
「私は、あの人に見合う人間になりたいのかもしれません。あの人の隣で、辛い時悲しい時支えたいし、楽しい時には一緒に笑いたい。でも今は私にそんな資格があるのかが分からなくて、不安です。」
そこまで紡がれた言葉に、つける感情は「恋愛感情」ではないのだろうか?
三木ヱ門は、誰かを想っている。
「三木ヱ門、それって・・・・」
タカ丸はきっと、私と同じ答えを言おうとしている。
それは。
それは、今は。
「三木ヱ門!!!!」
「し、潮江先輩!!!」
いきなりかけられた大声に、三木ヱ門はビクリと肩を震わせた。
慌てて振り返るその顔は真っ赤に染まっている。
覚束ない足取りでかけてきた三木ヱ門の肩を掴み、ふと我に返る。
一体何をしたのか?
タカ丸の口から、三木ヱ門の抱いている感情に答えを出される事が嫌で思わず叫んでいた。
「あの?・・・先輩?」
不安そうに首をかしげた三木ヱ門に、なんとも形容しがたい感情が渦巻く。
「あ、あれだ。帳簿の書き直しがあるから、今すぐ委員会室に来い。」
「え?帳簿の書き直しですか・・?わ、分かりました。」
「行くぞ。」
「はい!」
ふと顔を上げた瞬間、全てを見通したようなタカ丸の目とはち合う。
静かに微笑むタカ丸に他意はないのだろうが、受け取る側の心情如何ではどうにも嘲笑されているように見える。
自分をまっすぐに見上げてくる後輩に、余計な感情を抱いてしまった己を笑われているようで。
認めたくないともがく姿は、滑稽だろう。
顔を顰めて睨みつけた私に、困ったように肩をすくめてタカ丸はその場を後にした。
その背を見送り、訝しげに見上げてくる三木ヱ門の肩を押して委員会室へ促す。
何か言いたげなその視線を無視し、虚空を睨みつける。
今はまだ、その感情に気付かないでくれ。
私の覚悟が出来るまでは。
文三木でした^^
文三木が増えて嬉しいと言ってもらえたので、早速文三木vvvv
文次郎の方が意外とゾッコンだったら嬉しい(^v^)
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