夏休み、家に帰りたくない滝夜叉丸。
なぜなら畏まった格好をして、窮屈で退屈な生活が待っているから。
忍術学園で自由奔放な生活を謳歌していた滝夜叉丸には、もう我慢出来ない。
お気に入りの前髪のカールも、家じゃ評判悪いのでお預け。
こっそり隠れて身体を動かすのがひそかな楽しみ。
あと、やっぱり小平太に会えない。
気を使わずに言いたい事を言える綾部に会えないのも辛い。
愚痴りたい!目いっぱい後輩達をからかいたいし、可愛がりたい!
先輩と一緒に走りこみもしたい!
きっと滝は学園に帰ってすぐ綾部にダラダラと家の文句を言い、三木ヱ門と喧嘩初めをして、小平太と会えてニコニコして、金吾たちをからかって可愛がってグダグダ言うんですよvv
もう快感!これこれ!みたいな。(笑)
「滝夜叉丸先輩、夏休みは楽しかったですか??」
ニコニコと問いかけてくる金吾に曖昧に微笑み、滝夜叉丸は土産の砂糖菓子をその口に放り込んでやる。
「土産だ、三人で分けなさい。」
上品に並べられた板状の砂糖菓子には、鹿の絵が描いてある。
箱に入っている沢山の砂糖菓子に、受け取った金吾と四郎兵衛は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「こんなにいっぱいあるのに、3人で分けていいんですか?」
少し不安そうに首をかしげる四郎兵衛の頭をなで、滝夜叉丸は苦笑する。
「七松先輩には、甘いものよりもこっちの方がいいだろうと思ってな。」
そう言って滝夜叉丸が掲げたのは酒瓶。
上等そうなその様相に、二人はおおーっと小さく感嘆の声を上げる。
「凄い高そうなお酒ですね。」
「うん、家の父ちゃんが飲んでるお酒とは全然違う。」
「あはは、どうせ貰い物なんだよ。誰も飲まないからな、持ってきたのさ。」
にしっと、珍しくあざとい笑みを浮かべた。
「じゃあ、ちゃんと三之助を捕獲して長屋にもどれよ?」
「「はーい!」」
元気よく返事をする二人に、滝夜叉丸の頬が緩む。
そうそうこれだ!素直で可愛い後輩!
「いい返事だ!」
ぐりぐりと頭を撫でてやれば、照れて笑う二人。
ぺこりとお辞儀をして駆け出す。
その背を見送り、滝夜叉丸は小平太のいる丘を目指す。
新学期早々マラソンに駆り出されたは良いが、流石に体がなまっているようで皆付いて行けない。
それを予想していた滝夜叉丸は、疲れ果てた後輩を先に解散させたのだ。
一人ゴールにいるであろう小平太も、きっとこうなる事は予想しているはず。
まだ残暑厳しい裏山を、一人駆け出す。
夏休み中、やりたかった事。
喜八郎と取り留めの無いことを話し、三木ヱ門と喧嘩して。
金吾や四郎兵衛を可愛がり、三之助を探す。
そして。
「七松先輩!」
岩肌に腰掛けた小平太が振り返る。
掲げられた小平太の手をパシリと叩いて、ゴールした。
「お疲れさん。やっぱり滝だけかー。」
そう言うとにっこり微笑む小平太に、ホッとする。
「はい、三人は解散させました。」
「ん、いいよ。またビシバシ鍛えてやるから。」
声を上げて笑った小平太の隣に座り、土産を差し出す。
「先輩、お土産です。」
「うそ!良いのか?」
「はい、どうせ貰い物なんです。誰も飲まないから、先輩に貰っていただけたらと思って。」
「そうか、ありがとな!」
小平太は滝夜叉丸を引き寄せ、その頬に口付ける。
「先輩!?」
「いいだろう?どうせ私達しかいないんだから。」
目を細めたその顔は、いつも以上に大人びて目が逸らせない。
「・・・・会いたかった。」
滅多に聞けない小平太の本音。
少し驚いて目を丸めた滝夜叉丸に少し笑い、鼻の頭をこすり合わせる。
「お前は?」
甘く響くその声に誘われるままに見つめた目は艶めいて、滝夜叉丸の胸を疼かせた。
「私も・・・会いたかったです・・・。」
頬を染めながらも素直に答えた滝夜叉丸に、小平太は破願した。
「何でこんな所まで迷うんですか、次屋先輩・・・・。」
あきれ果てる金吾。
「え?俺はお前達を探しに・・・。」
発言まで方向音痴の三之助。
「いやいやいや、逆ですから。ね、時友先輩。」
「うん、そうそう。」
もはや疲れと呆れで何も言う気が起きない四郎兵衛。
「結局頂上まで来ちゃって、挙句出るに出られないこの情況。」
金吾はどこか大人びた顔で茂みの向こう、岩に腰掛けいちゃつく二人の背を見つめる。
「本当どうしてくれるんですか!次屋先輩!」
「ええ、また俺の所為?」
四郎兵衛の抗議の声に不服そうな三之助。
「とりあえずこれ食べてましょうか?」
滝夜叉丸の土産を広げはじめた金吾に、口を尖らせていた二人も目を移す。
「そうだな、少し待ってゴールしよう。」
「ですねー。」
「ねー。」
三人は土産の砂糖菓子をボリボリとむさぼった。
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