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錆浅葱

小話とアニメ感想
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滝夜叉丸の夏休み4

捏造もここまで行けば怖くない。(いやいや)
今日はおまけもあります。(笑)






夕暮れ迫る頃、滝夜叉丸は昨日親当に手を引かれた場所に立っていた。
小平太には笑われた。
滝夜叉丸は律儀だな、と。
昨日見せた親当の微笑みは、本当に優しくて温かかった。
その笑顔を曇らせたくなかったのだ。
まだ蝉の声も大きく響く。
日暮が鳴くのはまだ先か・・・。
あと3日すれば、小平太ともに学園へ戻る事になる。
七松家の生活が余りに濃密で、楽しくて仕方ない。
「もう少し、居たいなぁ・・・。」
少し情けない自分の声に笑い、滝夜叉丸はあぜ道を見つめる。
「早く帰ってこないかな、ちか・・・・兄上。」
誰が聞いている訳でも無いのに、親当と言いかけたのを訂正する。
滝夜叉丸は律儀だな。
先ほどの小平太の言葉が耳によみがえる。
全く持ってその通りだ。
手持ち無沙汰な腕を回し、肩を解し始めた時おおきな声が響いた。
それは親当の声と、もう一つ野太い声。
そして、もう一つは・・・。
「ちかまさー、まてー。」
「誰が待ちますか!てか、京極さま生きてますかー!!???」
「ぶほぉう!く、ぐぐぐるじ・・」
「いけー、高将ー!親当を捕まえろー!」
「いい加減にしてください!京極さまが死にますから!」
必死の形相で走ってくる親当の後ろには、異様に大きな人影。
それは、大柄な男の背に乗り涼しい顔で笑う飴を咥えた男。
絶妙な腕の位置の所為で、飴を咥えた男を背負う大男は首が絞まっていた。
青白い顔で必死に走るのは、非常に怖い。
と言うか、これは一体どういった状態なんだ?
滝夜叉丸の頬が引きつる。
訳が分からない。
「あ、兄上?」
「た!!滝夜叉丸ぅー!!!」
負けず劣らず必死の形相で走りこんできた親当は滝夜叉丸の姿に、嬉しそうに笑って・・・。
「ぎゅっ」
「うひゃ!」
抱きしめられたかと思えば、そのまま担がれてしまった。
「ちょっと!兄上?」
「滝夜叉丸、夜夢に見るぞ!絶対後ろを見るなぁ!!」
いや、もう見ちゃったよ。
顔を上げてみれば、飴男の涼しい目元が滝夜叉丸を捉える。
間の抜けた表情をしているくせに、妙に食えない雰囲気。
(なんか嫌だ、この男。)
滝夜叉丸がそう思っていた頃、飴男も同じような事を思っていた。
「おい高将、あれは親当の弟か?」
「ぼそうへおうご」
「また一つ人として大切なものを失くしてしまったな、高将。言葉を忘れるとは・・・。」
「ぐるしいんだよ!」
必死にそれだけは叫ぶと、高将と呼ばれた男はすっ転んだ。
ずべべー。
飴男もそのまま地べたに顔面から落ちた。
「あ・・・。兄上、後ろの二人がすっ転びました・・・。」
「は?いい気味だ!だが放っておけないこの身分!」
悔しそうに歯を食いしばり、滝夜叉丸を下ろす。
「滝夜叉丸、すまないが孝廉にいつもの客が来たと伝えてくれ。それで分かるから。」
「え、ああ・・・はい。分かりました。」
戸惑いながらも微笑んで頷く滝夜叉丸に、親当の頬が緩む。
「んー。いい子だー。」
ぐりぐり~。
褒め殺しを頂いた時、感じた不穏な空気。
うわー、見たくない。
親当の背越し、恨めしげなグズグズの顔の飴男など。
「ちーかーまーさぁー・・・・。」
大きく嘆息し、その情け無い声を振り返る親当。
「あー、もう。そんな無茶を京極様にさせるからですよ!」
やれやれと言った顔で笑う親当を見ると、心底嫌がっているわけではない事が滝夜叉丸にも分かった。
「顔が痛い・・・」
「そりゃそうでしょう。盛大にすりむいてますからね。ほら立って。」
「立てないー。」
「その傷に塩すり込みますよ。孝廉が。」
「!!」
どうやらこの飴男、孝廉が苦手らしい。
「細川様の前に、京極様が大変ですよ。」
「大丈夫だよ、高将は武官だよ?鍛えてんだから!それに比べて私は細腕の文官なんだよ?」
可哀相なフリをして涙を浮かべた飴男に、親当は眉を下げ困った顔で笑う。
「はいはい、分かりました。ほら、手を出して。」
親当が飴男を引っ張り上げた時、また滝夜叉丸と目が合う。
ニッ。
悪戯が成功したと言わんばかりの笑みを浮かべた飴男に、滝夜叉丸はあきれ返った。
(早く孝廉さんに伝えよう・・・。)
滝夜叉丸は親当が朝愚痴ていた気持ちが、ほんの少し分かった気がしたのだった。



おまけは、職場での兄上と飴男と高将と呼ばれた大男の4コマです。(^^)


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今日は、ちょっと夏休みから離れます。

今日の小話は、久しぶりに滝の夏休みから離れます。(^^;)
ね、何事も倦怠期ってありますし。(をい)
くっついていないこへ滝です。






「あの子小平太に気があるね。」
そんな声が聞こえてきた。
ざわりと騒ぐ胸。
渡り廊下の向こう。
中庭にある池を覗きこむ二人の上級生。
それは、同じ体育委員会の先輩七松小平太。
隣には同じ6年の立花仙蔵。
先ほどの声は、仙蔵の声。
面白がるように小平太の顔を覗きこむ。
「どうするんだ?私はなかなか可愛いと思うがな。お前にも似合いそうだぞ?」
「面白半分で人の恋路に首突っ込むなよ。」
笑いながら答える小平太に、少しホッとする。
すぐにその話に乗ることはなかったから。
柱に身を隠しながら二人のやり取りを盗み聞く滝夜叉丸は、気配を消して佇む。
自分の胸が抱くこの身を切りそうな想いの正体、それは恋慕。
小平太への恋心。
それに気付いたのは、つい最近のこと。
覚えたての感情、まだ柔らかい生まれたての恋。
今はまだ、潰されたくない。
まだもう少し、この胸で暖めさせて欲しい。
ぎゅっと胸元であわせた手が、着物をきつく握り締める。
(お願い・・・・お願いです・・・・。まだ、もう少し。)
唇を噛み締め、祈るように目を閉じた滝夜叉丸の耳に響くのは。

「ま、私も前から気になってたしな。」

残酷に告げられた、その答え。
滝夜叉丸の胸の奥、何かが割れてしまう。
その衝撃が全身を駆け抜けた。
じりじりとその身を焼く。
堪らずその場を走り去る滝夜叉丸。
必死に足を速め、逃げ場所を探す。
ぐんぐん過ぎていく景色。
学園中委員会で走り回った滝夜叉丸の目には、その全ての景色に小平太との思い出がある。
嫌だと首を振り、裏山へ向かい走り抜けた。
どこへ行っても同じだ、今のこの感情からは逃げられないのだから。
きりりと締めつけてくる小平太の言葉。
柔らかな想いが、悲鳴を上げる。
「っ・・・・・うっ・・・・ふぅ・・」
堪えきれない嗚咽が、食いしばった歯から漏れた。
情け無い声が、一層滝夜叉丸の自尊心を傷つける。
ぼろり溢れた涙を拭った時、大きな木の根に足を取られて転ぶ。
地面に身体を打ちつけた衝撃と、顔を削られた痛み。
「っ!!!」
一気に鼻を突いた土の匂い。
なんて惨めなのだろう、今のこの自分の姿は。
「・・・バカだ・・・私は・・・っ大ばか者だ!」
委員会の先輩に、しかも同性の男に恋心を抱いて。
その上、相手に想い人が居た。
勝手に思いを募らせて、勝手に傷ついて、それが苦しくてボロボロ泣いて、挙句泥にまみれて蹲る。
惨め過ぎて、もう笑ってしまう。
滝夜叉丸は歪んだ笑みを浮かべて、痛む胸を押さえて蹲った。
哀れむのは自分じゃない。
この胸の、柔らかで暖かな想い。
折角この胸に生まれてくれたというのに、すぐに潰されてしまった初めての恋心。
儚く脆く、激しい痛みを伴いながら消えていこうとする初恋。
ほんの少しだけの間だったが、この胸に確かに育ってくれていたのに。
「ごめん・・・・・・ごめんなっ・・・・・・・」
大粒の涙と、悲痛な謝罪。
震える肩は、頼りなく揺らぐ。
「っ・・・ぅ・・・・・ごめん・・・・・ひぅっ・・」
夜の帳が下りる頃になっても、その背は小さく震え続けた。







珍しく、滝の片想いっぽく。
まあでも、逞しい妄想(想像)力をお持ちの方なら、察してしまったはず!
そう、仙蔵と小平太の言う『あの子』の正体。(笑)
ええ、あの子ですよ。
あの子しかありえませんよね!(笑)
だってウチこへ滝サイトだし!(爆笑)








滝夜叉丸の夏休み3




子供の相手は大変だ、何て私の歳で言ってもいいのだろうか?


朝に比べて明らかにボロボロの滝夜叉丸。
しかもその着物は何故か女物に変わっている。
「ただいまー!滝~?」
元気な声が土間に響く。
どうやら小平太と孝廉が家に戻ったようだ。
ハッとして慌てるも時既に遅し。
少し泥で汚れた小平太がひょっこり顔を出した。
「あれ?滝なんか可愛いね。」
にっと笑う小平太に、力なく微笑む滝夜叉丸。
「実は・・・。」


小平太が三之助を集合場所まで送っていった後、流しを片付け終えた滝夜叉丸は支度に取り掛かった。
今日は茶道の作法を教えて欲しいと言われたため、道具をそろえていく。
てきぱきと動き回る滝夜叉丸を見つめる小平太の母幸乃は、何かを思いついたようにぽんと手を打つ。
「滝夜叉丸ちゃん。」
「は、はい?」
ちゃん付けで呼ばれるのは初めてだ。
ビックリした顔で振り返る滝夜叉丸に幸乃は楽しそうに微笑む。
「うふふ、田舎の女の子は純情なのよ。だからね・・・・」
「??」
「滝夜叉丸ちゃんみたいに綺麗な顔の男の子見たこと無いと思うの~。だからね、勉強に身が入らなくならないように、先生する間はお滝ちゃんでお願いできるかしら?」
微笑を浮かべる幸乃は親当の母とは思えぬほど若々しい。
だがその口から出た言葉は、意外すぎて簡単に滝夜叉丸を固まらせた。
いそいそと、だが心底楽しそうに箪笥を探る幸乃。
「私が少女時代着てたものがここにね~」
「え?ちょ、ちょっと待ってください!」
「遠慮しないで~。」
遠慮じゃないよ!
何でこんな所に来てまで女装?これは呪いか?
そして何故七松家の人間はこんなにも人の話を聞かないんだ!?
「お、お母様?」
「あら。幸乃さん、もしくは幸ちゃんでいいわよ?」
うふふふふふーと笑う幸乃。
ああ、この笑顔孝廉に似てる、と力ないため息を漏らす。
「じゃーん、どっちがいい?」
幸乃が手にしていたのは、薄桃色の生地に羽ばたく蝶の柄。
もう一着は天色の地に朝顔。
「いや・・・あの幸乃さん。私は女装などは・・」
「どっちがいい?」
「・・・・・・・・・・・。」
ニコニコと楽しそうに問いかける幸乃の言葉には、拒否却下の重圧。
うっと詰まる滝夜叉丸にもう一度着物が差し出された。
「さあ!どっち!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・こ、こちらで。」
滝夜叉丸は夏らしい天色の着物を指差した。
もうやけだ。
「ああん!私もそっちが似合うと思っていたのよ!さ、すぐに着替えてきてvv」
そんなに元気なら作法ぐらい教えられそうだと内心思ったが、孝廉と同じ笑顔だと気付き逆らう事は諦めたのだった。



「そ、そうか・・・・母上が。」
ぽりぽりと頬をかいた小平太。
目の前にはまるで本物の女子のような滝夜叉丸。
「そんな無防備な姿、晒していいのか?」
誘うようにささやけば、真っ赤になって慌てる。
その初々しい反応に笑いながら、小平太は滝夜叉丸の頭を撫でてやる。
「お疲れ様。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、お疲れさまです。」
恥ずかしそうに微笑んだ滝の夜叉丸の額に、おおきな音をたてて口付けた。

迷子の迷子の・・・

ちょっと、ねちねちキス表現あります。
気をつけてください。(^^;)









あれ?まだみんな来てないなぁ?
集合場所間違ってんじゃないのか?
大丈夫かな?
みんなすぐ迷うからな。
ま、とりあえずもう少し待ってみるか!
三之助が無自覚に迷子になっていたその頃。
神崎左門を除く3年生全員は、向かいの山の頂上に集合していた。


そして七松家では。
長男親当が仕事に出かけていた。
「それじゃあ、行ってきます。」
「「「いってらっしゃい。」」」
弟プラス滝夜叉丸の見送りに満面の笑みで答え、親当は大きく手を振りながら家を後にした。
「あー、あんなに上っついてたら上官にいじられるぞ、兄上・・・。」
困ったように笑い、孝廉は鍬を肩に担ぎ畑へと出発する。
「じゃ、いってくる。」
「いってらしゃい!」
「後で手伝いに行くから。」
「ああ、頼むよ。」
七松家の台所事情により、自家栽培できるものは何でも孝廉が作っているらしい。
それに加えて、ほんの少し忍者としての仕事もこなしていると言う。
滝夜叉丸には孝廉と戦場のイメージがどうにも結びつかない。
ただ実力者である事は分かった。
青々と沢山の酒類の葉が茂る畑へ向かう孝廉の背中がだんだん小さくなっていく。
「それじゃ滝、悪いけどよろしく頼むな。」
「はい、お任せ下さい。」
にっこりと微笑んで小平太に答える滝夜叉丸。
実は小平太の家に招かれたのは、単に家に帰りたがらない滝夜叉丸を心配してだけの事ではない。
小平太の家の敷地には小さな寺子屋がある。
小平太の父と母が、村の子供達に勉強や礼儀作法を教えているのだ。
教養があれば、例え身分が低くともある程度安定した収入を得る仕事に就ける。
貧乏と言えども、武家は武家。
その辺はしっかりと教育を受けている。
助け合い暮らしている集落の中で、小平太の両親は教育を提供しているのだ。
村の殆どの者から『先生』と慕われている小平太の両親。
だが葉菜代を出産して以来、少々体調を崩した小平太の母。
礼儀作法や花嫁修業として行っていたお花やお茶を教える事が出来なくなっていた。
その事を孝廉の手紙で知った小平太は、渡に船と滝夜叉丸に話を持ちかけたのだ。
ただ家に遊びに来いでは、滝夜叉丸の事きっと遠慮する。
だがそこに『お願い』が入ると、滝夜叉丸の元来の世話焼き&頼られると嬉しい気質が疼く。
案の定、仕方ないですねと笑いながらも嬉しそうに快諾してくれた。
「さ、私も巻拾いに行くかな!畑も行かないとならんしな!」
「じゃあ私は食器を洗っておきます。」
「ん、それじゃ滝。」
「はい?」
んー、と唇を突き出す小平太。
ドキリと頬を赤らめながらも、微妙に引いてしまう滝夜叉丸。
「行ってらっしゃいの口付けを・・・」
「しませんよ。」
嫌そうに顔を顰めて見せても、心底嫌がっていない事などすぐにわかる。
「えー、私が頑張れるか頑張れないかはこれで決まるんだぞ?」
うるっと捨てられた子犬のように拗ねた顔で強請るのはずるい。
への字に口を閉じた滝夜叉丸は、真っ赤な顔でため息をついた。
そして、ちゅっと可愛らしい口付けを一回。
「へへへー」
にへらぁと笑う小平太は、指を一本立てる。
明らかに、もう一回の意味だ。
「ちゃ、ちゃんとしたじゃないですか!」
むっと眉を吊り上げた滝夜叉丸をふわりと抱きしめ、小平太は木陰に連れ込む。
「だって、今日はいっぱい働かないといけないんだぞ?一度だけでは足りないさ!」
「どんな理屈ですか!って、先輩ちょっ・・・んっ!」
強引に口付けた小平太を睨むも、目の前には閉じた瞼。
思いのほか長い睫毛。
きりっと凛々しい眉。
その眉に掛る褐返色の髪は、粗く堅い。
そよぐ風に揺れる髪からは、小平太の匂い。
滝夜叉丸が一番落ち着く、大好きな小平太の太陽のような匂い。
「んっ・・・・はぁ・・・あ・・・」
やっと離れた小平太の口元には、どちらの物ともつかない透明な糸。
それは滝夜叉丸の唇にも。
恥ずかしそうに指で拭えば、小平太が笑う気配。
「そんなに可愛いと、朝からでも攫ってしまいそうだ。」
「たちの悪い人攫いですね。」
優しく睨む先、小平太は意外そうに眉を上げた。


「だって性質が悪いではないですか。攫われたいと思わせる”人攫い”なんて。」


ふわりと微笑んだ滝夜叉丸から漏れた予想外の殺し文句に、上手を取っていたはずの小平太は目を丸める。
それは、非常に・・・・嬉しい事を言われたようだ。
少し頬を赤らめ、恥ずかしそうに笑う小平太の首に手を回し滝夜叉丸は少し背伸び。
小平太の所為で赤く熟れてしまった唇が、遠慮がちに吸い付いてくる。
柔らかな唇、震える瞼。
長い睫毛と、綺麗な髪。
漏れる吐息は、小平太を嫌と言うほど煽ってくれる。
これ以上はまずい、流石に分かっている。
だが止まらない。
何故こんなに甘いのか?
一度味わえば、また欲しくて啄ばむ。
離れられない、麻薬のよう。
「せ・・・んぅ・・・もぅ・・・・だめ・・・・」
「ん・・・・でもさ・・・・・とまんなぃ・・」
もう蕩けてしまいそうな滝夜叉丸は、必死に小平太にしがみつく。
そうでもしないと、膝が笑い立っていられないのだ。
思考が追いつかなくなってくる。
ジュッチュプ・・・チュッ・・・・
恥ずかしい水音が、蝉の声よりも耳に響く。

もう本当に、これ以上は無理!

滝夜叉丸は泣き出す寸前の状態で、必死に小平太の胸を叩いた。
ハッとした小平太が慌てて離れた時、遠くから響く慌てた声。
それは先ほど家を出たはずの親当の声で。
ん?と、ぱちくりと瞬きをする小平太。
息を整えながら必死に冷静を取り繕う滝夜叉丸。
潤みきった目が睨みつけてきたが、小平太はあえて気付かぬフリで首をかしげた。
「あれ?兄上の声だ?」
「わざとらしいですよ!」
しかし親当が小平太と滝夜叉丸を呼ぶ声は確か。
二人は慌てて駆け出す。
「兄上!どうしたんですか?」
「先輩!一体何・・・・って・・。」
駆けつけた二人が目にしたもの。
それは、見慣れたあの・・・・あの・・。
「あれ?先輩方。おはようございます。」
親当が必死に手を引いてきたのは、名物迷子の次屋三之助だった。
「いやー山道の中行き成り現れてね、猪?って思ったらこの子でね。聞けば忍術学園の生徒さんって言うからお兄ちゃんビックリだよー。」
額に大粒の汗を光らせた親当、どうやら三之助の手を引いてここまで連れて来た様だ。
きっと行き成り迷い癖を発揮して、あちらこちらに引き摺られそうになったのだろう。
すみません、本当にすみません。
滝夜叉丸は心の中で謝った。
「三之助、なんでこんな所に居たんだ?」
小平太が笑いながら三之助を受け取ると、親当はホッとして額の汗を拭う。
「私も理由を聞いたらね、何でも自主練習とかで山に入ったらしいんだけど。この子が言ってる山って真向かいの山なんだよね。案内する時間ないからさ、お前に頼もうと思って。」
「そっか、あいかわらずだな、三之助。」
「ん?何の事ですか?」
きょとんと首をかしげた三之助に爆笑し、小平太は親当に礼を言ってもう一度送り出した。
「三之助、 ここは私の実家だ。今のは私の兄。」
「へーここが先輩の家ですかー。」
「おう!自主練終わったら遊びに来い!さて、お前を先に送っていくかな!」
立ち上がった小平太に縄を手渡す滝夜叉丸。
わっかになった縄に二人で入る。
「またこれですか?先輩達好きですねー。」
「お前のためだろうが!!!」
声を荒げた滝夜叉丸に苦笑し、小平太は三之助ににっと白い歯を見せる。
「三之助ぇー、体なまって無いだろうな!」
「・・・・・・お手柔らかにお願いします。」
夏休みに入りまだ10日ほどだが、委員会から離れただけでも運動量はグンと減る。
冷や汗を流した三之助、笑う小平太。
三之助は思った。

藤内、作兵衛、左門、孫兵・・・・・・・・・・あ、数馬、俺無事にたどり着けないかも。

あらぬ方向を見てうすら笑う三之助を引っ張り、久しぶりの掛け声が朝の空に響く。



「いけいけどんどーん!!!!!」

滝夜叉丸の夏休み2

今日は絵を描いてません。(^^;)
文字のみの妄想ですー。







小平太の家に来て二日目の朝。
晴天の空には、わたあめのような雲が3つ。
ああ、今日も暑い。
額の汗を拭い、朝餉用の薪を抱えなおした。
「兄上、薪はこれくらいでよいですか?」
気恥ずかしさはまだ抜けないが、兄上と呼べば嬉しそうに振り返る親当の笑顔には敵わない。
土間で鍋を見ていた親当は、やはり嬉しそうに滝夜叉丸を振り返った。
「ああ、十分だよ。ありがとう滝夜叉丸。さあ、小平太たちを起こさないと。」
「あ、私が起こしてきます。」
草履を脱いで上に上がれば、起こす前に現れる孝廉。
「おはようさん。よく眠れたかい?滝夜叉丸。」
ニコニコと人好きのする笑顔で問うてくる孝廉の頬には、畳のあとがくっきりついていた。
それが可笑しくてたまらない、だが笑っていいかが分からない。
むずがゆい顔で笑い、滝夜叉丸は頷いた。
「はい、旅の疲れもあったのかぐっすり休ませていただきました。」
「そうか、そいつは良かった。」
ニコニコと笑う孝廉の頬から目が離せない。
「兄上、朝飯はなんです?」
「茄子が美味そうだったから、茄子の味噌汁と茄子田楽と茄子の浅漬けだ!」
「茄子だらけじゃないですか・・・・。」
「孝廉、うちは貧乏なんだよ。贅沢は言っちゃぁいけないよ・・・。」
ううっと肩を落とした親当。
大きくため息をつく孝廉。
ここに来てよかったのだろうか、食費入れたほうが良くないか?
滝夜叉丸は妙にドキドキしてきた。
「大体あの男、仕事もロクにできない癖に私にばかり面倒くさい仕事押し付けて。挙句シラスの目が怖いからシラスの目を全部取ってぇ~。とか有り得ないから。年下の癖に偉そうだし、それなのに妙に甘えてきたりで人の兄貴本能くすぐって手玉に取りやがって・・・。」
ぶつぶつぶつぶつぶつぶつ
「あ、あの・・・」
「滝夜叉丸、昨日言っただろう??この人の事は気にしちゃいけないって。ちょっと家計の事とかに話がいくと、いけ好かない上司の愚痴が漏れ出すんだよ。」
「はぁ、そうですか・・・」
じゃあ、綺麗にスルーして小平太を起こしに行こうとする滝夜叉丸。
忘れよう、あの姿は忘れていいんだ。
うんうん、と自分に言い聞かせる。
「そうそう、何時だったかな?あいつが俺に向かって『おにいちゃあーん、飴玉たべたぁい。』とか言ってきやがってよぉ。その顔が小さい頃の小平太に見えて・・・ああ俺のバカ!って自分で分かってんのに必死に町まで飴買いにいってよ。帰ってきたら一言、『あ、もういらないわ親当。アイス食いてぇわ。』とか言いやがるんだ!」
うん、忘れよう。
風鈴の音が響く縁側を渡り、小平太の部屋に着く。
先に起きた滝夜叉丸に気付きもしないまま、まだ高いびき。
まったく、学園じゃあこんなに気を緩めていないくせに。
「先輩!起きてください!朝餉の支度できましたよ。」
障子を開けると、大の字で豪快に眠る小平太の姿。
「先輩・・・・・ふんどしまで丸見えですよ?」
「がーっ・・・が!そこがセクシーだろ?」
「どこがですか、起きてるなら早く起きてきてくださいよ。」
「だって、滝に起こしに来て欲しかったんだよ。」
にっこりと満面の笑みを浮かべ、枕を抱える小平太。
呆れて嘆息した滝夜叉丸を手招きして呼ぶ。
何か良からぬ事を考えている事は分かるが、まあ良いかと笑う。
「口付けしないと起きないとか、仰るんでしょう?」
「へへ、よくお分かりで。」
目を細めて笑う顔は、朝には似合わぬ艶っぽさ。
思わず胸が跳ね上がる。
少し薄い唇に口付ければ、優しく頬と背を撫でなれた。
「おはよう、滝夜叉丸。」
「・・・おはようございます。」
恥ずかしそうに微笑む滝夜叉丸を抱きしめながら起き上がり、小平太はその頬に何度も何度も口付けた。








「そうだよ、何で俺はあいつよりも有能で努力家だと言うのに、いつもいつも手柄はあいつのものだし・・・」
「そうそう、兄上は偉い偉い。あ、味噌汁美味いですよ。父上たち起こしてきますね。」
「父上や母上、そしてお前達が少しでも楽できるように私は、私は!あんなバカ上司の下で、今日も頑張るんだ!」
「それにしても滝夜叉丸と小平太遅いですねー。」
「な!朝から破廉恥な!」
「何想像なさってるんですか?その前に、何でそこだけ聞こえてるんですか?」
「そうなんだよ!俺の話は聞かないくせに、煩いから無視したら『私の話を聞いてないのか!』と駄々こねだすんだぞ!」
「あ、弁官殿おはようございます。」
「素晴しい上司なんだぞ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・父上と母上起こしてきます。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くすん。」

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ハヂ
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忍たま出戻り組。以前は伝半・清団でしたが今回はこへ滝にすっころぶ。その勢いで文三木や長仙・留伊・雑伊が気になり始めました。(気が多い)
毎日夕方10分間の為に、色々と頑張れる。

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